社会の問題を解決するキャッシュレス化

2019.03.22

インタビュー:川野祐司(Kawano Yuji)

■キャッシュレス化とはどういうことですか?

キャッシュレス化は「支払いという行動のデジタル化」のことをいいます。どこで、何を、いくら、どのような手段で支払ったのか、ということがデジタルなデータとして残るということです。このデータを利用するとさまざまなサービスを展開することができます。
 
日本のキャッシュレス化は遅れているといわれていますが、ちょっと注意が必要です。私たちは、毎月の家賃やローン、光熱費、通信費などを銀行口座からの引き落としで支払い、オンラインショッピングでクレジットカードを使い、通勤では鉄道会社のカードを利用しています。1カ月の支出のうち、実はかなりの部分がすでにキャッシュレス化しています。ただ、私たちが実店舗で支払いをする場面では、まだまだ現金が主流であり、この場面で現金を使わない支払いに切り替えようとする動きがキャッシュレス化と呼ばれています。ただし、すでにキャッシュレス化されている銀行口座やカードなどでの支払いもまだまだ改善が可能です。私たちは既存の金融・支払いサービスの改善もキャッシュレス化に含めて考えています。
 
日本キャッシュレス化協会では、様々なキャッシュレスの取り組みを紹介し、キャッシュレス化を推進したい企業や自治体への支援に取り組みます。

■日本のキャシュレス化が遅れているといわれていますが、世界の情勢をお伺いできますか?

日本のキャッシュレス化は遅れているのではなく、抜かれています。日本では新しい技術は世界に先駆けて登場していますが、普及していません。キャッシュレスの使われ方に問題があるようです。

 

ヨーロッパ諸国では北欧を中心にキャッシュレス化が進んでおり、スマートフォンでの支払い(モバイルペイメント)が普及しています。ヨーロッパでは銀行口座の保有率が高いことから、スマートフォンで支払いのボタンを押した瞬間に銀行口座から代金が差し引かれる方式が普及しています。近年では、手の甲にチップを入れてそのチップを支払いや身分証として使う、バイオハッキングも広がりつつあります。バイオハッキングを使えば、財布もスマートフォンも不要ということです。

 

アフリカでは銀行の口座をもっていない人が多いのですが、近隣の国に出稼ぎに行っていて家族に送金したい、というような需要があります。銀行での国際送金は手数料が高すぎて現実的ではありません。そこで、電子マネーが普及しており、例えばケニアにはガラケーでも送金できるM-pesa(エムペサ)というモバイル送金サービスがあります。たばこやさんなどで現金を渡してエムペサに交換してもらい、ショートメールで家族に送ると、家族は瞬時にお金が受け取ることができるのです。治安が悪いところでも、お金を盗まれる心配がない。「お金を払いたい」「お金を受け取りたい」というニーズに応えるキャッシュレス化といえます。今では、ちょっとした買い物から公共料金の支払いまで、全てキャッシュレスで行うことが定着しています。

 

また、アジアでも電子マネーはよく使われています。アジアでは通販企業や交通会社が電子マネーを作っています。日本と似ていますね。初期費用が非常に安いQRコード方式が普及しており、露店などでもキャッシュレス化が進んでいます。中国のアリペイなどはキャッシュレスな支払いだけでなく、信用情報のスコアリングも行っていて、スコアが高いと特典が付きます。単なる支払いサービスから、より広い金融サービスに広がりを見せています。中国ではかつては銀行を信用しない人が多かったのですが、今では80%くらいの人が銀行口座を持っています。
お隣の韓国では政府がクレジットカード推進政策を進めました。クレジットカード払いをお店側が拒否できないという法律ができたのです。またクレジットカードの利用額から最大20%が所得控除されます。年間200万円の買い物をすると最大40万円を自分の収入から差し引いて確定申告ができるとう内容です。ただ、この政策には成人人口の10%が自己破産するという副作用もありました。現金からキャッシュレスに移行する時には、使い過ぎの問題がどうしても出てきます。日本キャッシュレス化協会が金融リテラシー教育を進める理由がここにあります。
キャッシュレス化は国や地域によって方式や事情が違いますが、キャッシュレス化が進んでいくことだけは間違いのない事実です。

■日本のキャッスレス化は今後どのように進めるべきだとお考えですか?

日本でキャッシュレス化が普及しない最大の理由は、種類が多すぎることです。種類が多すぎるために店舗の対応が進まず、あるサービスはここで使えて向こうでは使えない、というような状況が生まれてしまっています。支払いをする個人のユーザー側も何をメインに使えばいいのか分からない状態です。多くの国では、主要なサービスは1-2種類に絞られていて、対応が簡単になっています。企業や自治体などが主導してサービスの統一を図っていくことが必要でしょう。また、日本人が海外でも使えるように国際展開を図る必要もあります。インバウンドに関しては、海外のサービスが国内で使えるようにする取り組みが必要になります。国内のキャッシュレス化の進展とインバウンドの取り込みは戦略が異なります。

 

キャッシュレス普及のカギは、地方、女性、高齢者です。キャッシュレス化は怪しいものではなく、便利なもので生活を改善してくれますよ、という認識を持ってもらうことが重要で、そのためには社会問題の解決につながるようなサービスが必要不可欠です。便利で簡単に使える、そういうサービスが普及していくでしょう。

 

利便性の面では、1枚のカードですべてが済む、というサービスがいいでしょう。自治体での支払い、公共交通機関、商店、ガソリンスタンドなど地域のあらゆる支払いが一元化されると非常に便利になります。簡単に使える、という面では、ユーザーが勉強しなくても使えるサービスの開発が不可欠です。シャワーを浴びたいと思ったらお風呂に行って蛇口をひねるだけ使えます。どうやって水がお湯になっているのか、給水や排水のシステムはどうなっているのか、勉強する必要はありません。同じように、キャッシュレスも簡単に、そして安心して使えるようなシステムやインターフェースの開発が求められます。

■キャッシュレス化による社会問題の解決とはどのようなものでしょうか?

支払いサービスに他のサービスを統合することで、私たちの生活を改善する取り組みを指しています。例えば医療の分野では、私たちのカルテが電子的に保存されていて1枚のカードで読み出せるようにすると、病院を変えたり緊急で入院することになったりしてもすぐに今までの治療歴や病歴を取り出せ、適切な治療が受けられます。お薬手帳も不要になり、間違った薬を飲んでアレルギー反応が出ることもなくなります。医療費の支払い、薬代だけでなく、レストランでも同じカードが使えればアレルギー情報に基づいてメニューを表示できます。同じカードは給食にも応用できます。このように、キャッシュレスに様々なサービスを組み合わせることで生活を改善できます。
すでに、カルテと処方箋が統合されたカードを提供するサービスが誕生しています。

■キャッシュレス化を進める上でのキーワードはありますか?

地方、女性、高齢者です。これは日本だけでなく世界で共通したキーワードです。国際的にみて女性はキャッシュレス化に反対する割合が高いことが知られています。子供と接する機会が多いからではないかといわれていますが、そうであれば、お母さんと子供の両方が使える統一サービスがあればいいでしょう。給食費のような学校に関する支払い、習い事、お小遣いの管理ができるアプリなどがセットになれば有用です。アレルギー情報や医療情報も管理できれば、給食やレストランでの注文ミスがなくなり、急病で病院に行った時にも適切な治療が受けられます。お小遣いの使い過ぎをアプリが警告し、親子でお金の使い方について話し合うことができます。

 

キャッシュレス化は都会のことだと思われていますが、実は地方で威力を発揮します。現金社会では、まず現金を手に入れる必要がありますが、地方ではATMまで行くのが大変になりつつあり、現金社会は生活の質を悪化させつつあります。行政サービスや公共交通機関も巻き込んだサービスが生活の質を改善させます。地方では誰も乗る人がいなくてもバスが定期的に走っていますが、バスに乗りたい人が現在地と目的地を指定するアプリと連動していれば、必要な時だけ必要なルートをバスが走ればいいということになります。光熱費や年金なども管理できれば、家計簿も自動的に作成され、確定申告も自動でできるようになります。

 

一つ重要なのは、「新しいサービスは勉強しなくても使えるようにする」ということです。どんなに便利なサービスでも、使いこなすのが大変であれば普及しません。新プリで使いやすいサービスの開発が求められます。

■これからの日本キャッシュレス化協会の役割を教えてください。

日本では企業がそれぞれ独自にキャッシュレス化を進めていて、サービスの乱立につながっています。この状況に店舗、消費者、自治体が困惑しています。私たちは中立的な立場で様々な取り組みを評価することができます。キャッシュレスに関する情報を交通整理し、皆さんの相談に乗る機関になることを目指しています。「1つの地域で1つのサービス」が利用者にとって最も使いやすいサービスです。そのためには、複数のサービスの統合も必要になります。日本キャッシュレス化協会がサービス統合の話し合いの場になることもできます。

 

また、キャッシュレス化を進めるにあたって様々な問題を解決する必要があり、その中には技術的な問題や法的な問題、社会的な問題も含まれます。定期的に行う「キャッシュレス研究会」を通じてより専門的な情報を発信していきます。会員向けのページでは、より深い論点や情報を提供していきます。

 

日本キャッシュレス化協会が進めるもう一つの役割は金融リテラシー教育です。キャッシュレス化が急速に進んだ国では、使い過ぎの問題が発生しています。現金からデジタルなお金になると、収支の管理の仕方が変わるため、新しい教育が必要になります。協会では高校生、大学生、新社会人を主な対象にしています。協会ホームページには、入門編となる動画教材を無料で提供しています。

 

これらの活動を継続的に続けていくためには、皆様からのご支援が必要です。法人会員、個人会員を募集しています。ご支援をお願いいたします。また、キャッシュレスに関する取り組みなどの情報も募集しています。企業や自治体などの取り組みはホームページ等で情報発信していると思いますが、キャッシュレスに関する情報提供に特化している協会も情報発信の場としてご利用いただければと思います。